大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和53年(むイ)542号 決定

主文

本件抗告の申立を棄却する。

理由

第一申立の趣旨及び理由

本件準抗告の申立の趣旨は、原裁判を取消し、被告人に対し昭和五三年四月一三日東京地方裁判所裁判官が発した勾留状に記載された勾留場所「警視庁築地警察署」を「東京拘置所」と変更する旨の裁判を求めるというものであり、その理由の要旨は、被告人は、窃盗被告事件につき昭和五三年四月二一日に起訴されその後引き続き警視庁築地警察署に勾留されているものであるが、その間同警察署及び東京地方検察庁において、捜査官から退室権を告げられることなく、本件被告事件を主に連日取調べを強要されている。しかし被告人は、起訴後はいつそう強く当事者としての立場を保障されるべきものであり、勾留に関し厳格な要件と期間制限が法定されている趣旨に照らせば、起訴後の取調べは被告人の真の同意がない限り許されず、また、かりに捜査官において余罪の取調べを必要とする事情があつても、被告人の右のような地位に鑑み、被告人を捜査の対象とすることは厳に戒めるべきであり、特に本件においては被告人が取調べを嫌つているのであるから、任意捜査が成立しないことは明らかである。以上のとおりであるから、憲法及び刑事訴訟法に従つた適正な手続形成を客観的に保障するため、被告人を近隣の拘置監に移監することが必要である、というものである。

第二当裁判所の判断

原裁判官が、弁護人所論の勾留場所を変更する旨の裁判を求める申立に対し、昭和五三年六月九日「職権を発動せず。」との処理をしたことは記録上明らかである。

弁護人の所論は、被告人(弁護人)は、勾留の裁判後の事情の変更を理由として勾留場所の変更を希望する場合に、裁判所に対し、勾留場所を変更する旨の裁判を求める申立権を有することを前提として、右原裁判官の処理をもつて実質上申立却下の裁判であると解し、本件準抗告によりその取消等を求めるものと認められる。

しかし、勾留されている被告人(被疑者)又はその弁護人は、勾留の裁判後の事情の変更を理由に勾留場所の変更を希望する場合に、裁判所に対し、勾留場所変更の裁判をするように職権を発動することを求め得るとしても、そのような裁判を求める申立権を有するものではないから、原裁判官が弁護人の申立に対し前記のような処理をし、裁判をもつて判断を示さなかつたことは正当であり、弁護人の所論は、前提を欠くものである。

そして、原裁判官の前記処理は、職権により勾留場所を変更する旨の裁判をすることはしないことを念のため記録上に表示したものにすぎず、もとより刑事訴訟法四二九条一項二号にいう勾留に関する「裁判」には該当しないから、結局、この点において本件準抗告の申立は不適法といわなければならない。

よつて刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により本件準抗告の申立を棄却することにして、主文のとおり決定する。

(大久保太郎 小出錞一 小川正持)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例